「投稿ボタンが押せない!」から始まった開発秘話――視覚障害者が作る、誰もが使えるツール【Tomo-Q開発レポート】

当ページのリンクには広告が含まれています。
Tomo-Q管理ページ

こんにちは。アスカネットの飛鳥です。

[前回の記事]では、11月15日に開催された「Civic Tech Meeting KANAZAWA 2025」のイベントレポートをお届けしました。

今回は、そのイベントを裏側で支えた技術の話をします。

イベント当日、参加者の皆さんが感想を投稿してくれたリアルタイム共有ツールTomo-Q(トモキュー)

そして、シビックテックミーティングの会が始まる前に、会場で金沢工業大学の学生さんが模索している「コード化点字ブロック」アプリのバージョンアップへの検証や技術協力

これらは、視覚障害当事者として、そして、普段からどのようにするとアクセシブルなサービスが作れるかと試行錯誤している私が、どのように開発・関わってきたのか。

その「開発の裏側」を少しマニアックに語らせてください。


目次

Tomo-Q誕生秘話――きっかけは「悔しさ」だった

インクルーシブなイベントで、当事者が使えないツール

実はこの『Tomo-Q』、今回のイベントのためにゼロから作ったわけではありません。

原型が生まれたのは、今年の8月末。「UDi(ユニバーサルデザインいしかわ)シンポジウム」の前夜でした。

当時、会場で使用予定だった有名な質問投稿ツールが、私の使っているスクリーンリーダー(音声読み上げ機能)では「投稿ボタンが押せない」という致命的な問題が発覚しました。

「インクルーシブ(包摂)」をテーマにしたイベントなのに、当事者が質問すらできない。

それは、いち参加者として、そして技術者として、とても悔しいことでした。

「ないなら、作っちゃえ!」――一晩で誕生したTomo-Q

「ないなら、作っちゃえ!」

その夜、私はAIの力を借りて、突貫工事で「音声読み上げでも完全に操作できる投稿ツール」を自作しました。

それが『Tomo-Q』の始まりです。


「突貫工事」から「実用ツール」への魔改造

8月のシンポジウムでは、前夜に作り始めた「とりあえず動くもの」でしたが、今回の「Civic Tech Meeting」は準備に期間もありました。
私自身も運営メンバー(コード・フォー・カナザワ)の一員です。

そして、今回は「見えない世界×シビックテック」という話題。

自分が登壇者として視覚障害のことを語ったり、テクノロジーのことを話すのに、スクリーンリーダーでは全然動かないツールを使うというのは嫌ですよね。

そこで今回、Tomo-Qを徹底的にブラッシュアップ(魔改造)しました。

開発で特にこだわった3つのポイント

1. 徹底したアクセシビリティ(誰でも使えること)

「視覚障害者が使える」は当たり前。

高齢者でも、スマホ操作が苦手な人でも、直感的に使えるUI(ユーザーインターフェース)を目指しました。

  • ログイン不要
  • 大きなボタン
  • 余計な装飾の排除
  • プロジェクター当栄養ページの実装

結果として、当日は誰一人として「使い方が分からない」と迷うことなく、スムーズに感想が投稿されました。

見える人も普通に使える。スクリーンリーダーの人も使える。ロービジョン(弱視)の人も文字サイズを調整し自分の見やすい大きさで見れる。色も反転表示対応という仕様にしました。
プロジェクター投影ページの実装については、以前のUDiシンポジウムで、プロジェクターに映すときはライトモード(バックは白色で文字が黒色)のほうが見やすいかも。コメント投稿用の説明や入力フィードは場所を取って当栄養には必要ないという話があったので、実装しました。

2. 管理機能の強化

運営側として、投稿された内容をリアルタイムで複数選択し、削除できる機能や、投稿の一時停止機能をつけました。

ログイン不要で投稿できるということは、個人情報だったり、公序良俗に反したものなど万が一書き込まれた場合に対応できる必要があります。予期せぬ投稿への対策も考慮しました。

3. 「見えない開発者」によるドッグフーディング

開発用語で、自社製品を自分で使ってテストすることを「ドッグフーディング(犬の餌を食べる)」と言います。

私は開発中、画面を一切見ずに、音声読み上げだけでテストを繰り返しました。

「見なくても使える」ツールは、結果として「見えている人にとっても、迷わず使える使いやすいツール」になるというのが、私の理想的な姿です。

画面を見ないことにこだわりすぎてシンプルすぎてデザインがダサくなったり、かえって文字の配色がどぎつかったり、フォントの大きさや形に気を使われていないケースもあります。

でも、見て使う人も、スクリーンリーダーで音声で使う人も、どんな人も使いやすいUIにするというのがいいですよね。


学生たちとの共創――コード化点字ブロックの改善

今回のイベント前に、もう一つ、技術的な関わりがありました。

金沢工業大学の松井教授の研究室が開発している「コード化点字ブロック」の次世代になるアプリの検証です。

コード化点字ブロックとは?

コード化された点字ブロックをアプリで読み込むと、コードに従って情報を音声で案内する画期的な技術です。

私自身、コード化点字ブロック自体、初期の開発当初から意見を言わせていただいて早数年。はじめのバージョンからするとスマホや周辺機器や技術も進んできて、随分使いやすくなってきたなという印象です。

当事者だからこそできるフィードバック

しかし、そのアプリ自体の操作性が視覚障害者にとって使いにくければ意味がありません。

イベント前、松井先生から依頼を受け、学生さんが開発したアプリの検証に協力しました。

具体的なフィードバック内容:

  • 「この画面遷移は、見えていないと迷子になるよ」
  • 「このページの作り方では、左右スワイプする数が多くなるので表示の順番を変更することでスワイプの数が少なくなって使いやすくなります」
  • 「VoiceOverカーソルを移動させずに、数秒おきにデータを書き換えて音声で案内するためのコードの書き方」

などなど。

エンジニア視点かつ当事者視点でのフィードバックを行いました。

学生さんたちは非常に熱心で、私の指摘をすぐに吸収しようと聞いてくれていました。

インクルーシブデザインの本質

当日の会場で、参加者が体験している様子を見て、「作る側(学生)」と「使う側(当事者)」が対話しながらモノを作るプロセスこそが、インクルーシブデザインだなぁと思いました。

そして、今の時代、AIなどを使えば、ガッツリプログラムを知っている人でなくてもソフトが作れる時代になっています。

ちょっとしたヒントや困り事があれば、作ってみたり改善したりできる。

こういうのがシビックテックに繋がっていくんだろうなと思いました。


まとめ:アクセシビリティは「優しさ」ではなく「品質」だ

2回にわたってイベントのレポートをお届けしました。

私がこのイベントと開発を通じて伝えたかったこと。

それは、アクセシビリティ(使いやすさ)は、障害者への「優しさ」や「配慮」ではなく、プロダクトとしての「品質」そのものであるということです。

アクセシビリティは全ての人のためのもの

私が開発したTomo-Qが、視覚障害の有無に関わらず「使いやすい」と言っていただけたように、「見えない人」が快適に使えるものは、巡り巡って「すべての人」にとって快適なものになります。

もし、あなたの会社のWebサイトやシステムが「誰かにとって使いにくいもの」になっていないか気になったら、ご相談ください。

「見えない視点」で、見落としていた課題(バグ)を見つけ出し、解決するお手伝いをします。


おわりに

これにて、Civic Tech Meeting KANAZAWA 2025 のレポートを終わります。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

シェアしてくださればウレシイです。
  • URLをコピーしました!
目次