読み物として楽しみたい人へ
- 自分の知らない世界を、面白く、楽しく知ってみたい
- ちょっと変わった、でも笑えるノンフィクションが読みたい
- 「普通」や「当たり前」について、一度立ち止まって考えてみたい
Kindle本 エッセイ
ある視覚障害者の、笑えて切実なトイレの話
「すみません、トイレはどこですか?」
この一言から、僕の壮大なクエストは始まります。
見える人にとって、トイレは案内板と矢印が連れて行ってくれる場所です。
でも視覚障害者の僕たちにとっては、「トイレに行きたいな」と思った瞬間、頭の中に真っ白な地図が広がります。
本書は、そんな僕たちのトイレ奮闘記を、RPGのクエストに見立てて書いた「あるある」体験談です。かわいそうな話ではありません。どうか遠慮なく笑ってください。その笑いの先に、伝えたいことがあります。
STATUS
SKILL
「どんな本なんだろう?」と気になった方へ。この本のテーマソングに続けて、「はじめに」を読み上げた動画です。
再生すると音が出ます。音量に気をつけてください。
各章のはじめには、その章のクエストを詠んだ一句があります。
どちらかな 祈る気持ちで ドアを開け
五感で気配をさがす。そして確率50%の「運命の二択」。男女の入口、どっちが正解?
広すぎて 壁が恋しい 個室かな
バリアフリートイレのパラドックス。鍵はどこ? 白杖はどこに置く?
流したい 押したボタンで 人が来る
ボタン・ロシアンルーレット、恐怖の赤ボタン、機械の中の幽霊。
紙どこだ 右か左か 大捜査
紙を求めて三千里。和式便器の向き。見えない汚れ。女性視覚障害者の静かなる闘い。
その言葉 心照らした ヒーローだ
外出前の水分調整。心ない一言。そして、すぐそばにいたヒーローたち。
そのフック きっと未来の 道しるべ
あなたに、施設に、メーカーにできること。アクションリスト付き。
はじめに「なぜ今、トイレの話なのか?」と、おわりに・著者についても収録しています。
STAGE 2
「視覚障害があるなら、広いバリアフリートイレを使えばいいのでは?」
そう思われる方も、きっと多いと思います。でも僕たちは、壁を伝って自分の位置をつかみます。手を伸ばしても白杖を伸ばしても壁に届かない部屋は、まるで砂漠のまん中です。便器はどこ? 出口はどっち?
ある人の「使いやすさ」が、別の人の「壁」になる。本書では、そのすれ違いも正直に書きました。
用を足し終えて、あとは流すだけ。ところが壁のパネルには、同じ形のボタンがずらり。どれが「流す」で、どれが「非常呼び出し」なのか、さわっただけでは分かりません。
僕は点字が読めるので助かっていますが、点字を読み書きできる視覚障害者は、全体の1割程度と言われています。
下のパネルで、「流す」ボタンを探してみてください。
点字も文字もないパネルです。押すまで、何のボタンか分かりません。スクリーンリーダーでは「ボタン1」から「ボタン8」と読み上げます。
押した回数:0
本書で紹介している調査では、視覚障害者の7割以上が、洗浄ボタンと間違えて非常ボタンを押した経験があると答えています。本では、知人が高速バスのトイレでブザーを鳴らしてしまった話も書いています。
男女のトイレの入口を見分けるのに、困難を感じている視覚障害者
洗浄ボタンと間違えて、非常ボタンを押した経験がある視覚障害者
点字を読み書きできる視覚障害者。残りの人には、点字の表示は伝わらない
広いバリアフリートイレより「狭い普通の個室のほうがいい」と答えた全盲の人
小便器の位置を探すのに困ると答えた全盲の人(LIXILの調査)
数字は、本書の中で紹介している調査や報告からの引用です。
券売機の前で立ち往生していた僕に、自然に声をかけてくれたラーメン屋の店長さん。丼を置きながら、さりげなくこう付け加えてくれました。
「れんげは、丼の右側、だいたい3時の方向にありますよ」
ラーメン屋の店長さん(第5章)
僕がこれから何に困るかを想像して、先回りしてくれた一言でした。トイレの前でも同じです。いちばんうれしいのは、こんなやりとりです。
店の人「何かお探しですか?」
あすか「すみません、男性用トイレはどちらですか?」
店の人「手前のこちら側が男性用ですよ」
情報さえもらえれば、中に入るのは自分でできます。腕をつかんで押しこまれるより、ずっと安心なんです。
著者の活動を紹介する記事の中で、視覚障害者のトイレ問題をユーモアを交えて書いた本として、本書が取り上げられました。
前作では、「ガイドは半歩前に立つ」「料理の位置は時計の文字盤で伝える」といった、サポートの方法をまとめました。
前作が「技術の教科書」なら、本作は、その技術が求められる現場の「リアルな心の声」です。広すぎるトイレで感じる心細さを知ると、ガイドの人の体が半歩前で「信頼できる壁」になってくれることが、どれほど安心につながるか、きっと想像してもらえると思います。
トイレの場所を探す、男女の入口を見分ける、個室の鍵の閉め方、便器の種類や向き、流すボタンと非常ボタンの区別、トイレットペーパーのありか、白杖の置き場所など、入口から出口まで困りごとが続きます。本書では、これを一つずつクエストとして紹介しています。
まず「何かお困りですか?」と声をかけてください。そのうえで「男性用は手前のこちら側ですよ」のように、言葉で具体的に伝えます。腕をつかんで中へ押しこむのは避けます。情報だけで分かる人もいれば、案内してほしい人もいるので、「一緒に行きましょうか?」と聞いてもらえると安心です。
あります。フロアごとに男女トイレの配置をそろえる、白い壁に溶けこむドアノブや手すりに色テープを巻く、洗浄ボタンにシールを貼る、個室に白杖や傘をかけられる小さなフックを付ける、スタッフに声のかけ方を共有する、などです。
必ずしもそうではありません。広すぎて壁に手や白杖が届かず、便器や出口の位置が分からなくなることがあります。本書では、全盲の人の半数以上が狭い普通の個室のほうがいいと答えた調査を紹介しています。車いすの人には広さが欠かせないので、そこに難しさがあります。
楽しめます。前作がサポートの方法をまとめた本なら、本作はその方法がなぜ必要なのかを、現場の体験から伝える本です。どちらから読んでも大丈夫です。
読めます。無料のKindleアプリを入れれば、スマートフォン、タブレット、パソコンで読めます。ただ、本の最後にもお願いを書いたのですが、できればトイレには置かないでくださいね(笑)。
読み終えたら、次に公共のトイレに入ったとき、10秒だけ「もし見えなかったら?」と想像してみてください。そして、トイレの前で困っている人を見かけたら、「何かお困りですか?」と声をかけてもらえたら、僕はとてもうれしいです。