トイレクエスト
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Kindle本 エッセイ

トイレクエスト

ある視覚障害者の、笑えて切実なトイレの話

「すみません、トイレはどこですか?」
この一言から、僕の壮大なクエストは始まります。

著飛鳥(『「見えない・見えにくい」をサポートする技術』著者)

クリーム色のタイルの壁に、ピンクの女性用の扉と水色の男性用の扉が並んでいる。その間で、白杖を持ったアスカが首をかしげ、汗をひとしずく浮かべてにこっと笑っている。頭の上に小さな「?」のふきだし。

装備は、白杖と五感だけ。

見える人にとって、トイレは案内板と矢印が連れて行ってくれる場所です。

でも視覚障害者の僕たちにとっては、「トイレに行きたいな」と思った瞬間、頭の中に真っ白な地図が広がります。

本書は、そんな僕たちのトイレ奮闘記を、RPGのクエストに見立てて書いた「あるある」体験談です。かわいそうな話ではありません。どうか遠慮なく笑ってください。その笑いの先に、伝えたいことがあります。

STATUS

なまえ
アスカ(著者・飛鳥)
しょくぎょう
鍼灸マッサージ師
みえかた
中心暗点。視野の真ん中に、光のチカチカがずっと居座っている
そうび
白杖

SKILL

  • ヒアリングスキル水の音、ハンドドライヤーの「コーッ」、人の足音。いちばん頼れる相棒。
  • スメルスキル昔は芳香剤の香りが道しるべ。最近のトイレは無臭すぎて、ときどき裏切られる。
  • テクノロジースキル音声案内は砂漠のオアシス。でもボタン式だと、まずボタン探しが始まる。
  • 最終奥義「人に聞く」いちばん確実。ただしMP(メンタルポイント)を大量に消費する。MP −30

テーマソングと、「はじめに」を聴く

「どんな本なんだろう?」と気になった方へ。この本のテーマソングに続けて、「はじめに」を読み上げた動画です。

再生すると音が出ます。音量に気をつけてください。

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冒険の地図(目次)

各章のはじめには、その章のクエストを詠んだ一句があります。

  1. STAGE 1

    扉の外から戦いは始まっている ―トイレクエスト・序章―

    どちらかな 祈る気持ちで ドアを開け

    五感で気配をさがす。そして確率50%の「運命の二択」。男女の入口、どっちが正解?

  2. STAGE 2

    個室は小宇宙 ―広すぎても狭すぎても地獄―

    広すぎて 壁が恋しい 個室かな

    バリアフリートイレのパラドックス。鍵はどこ? 白杖はどこに置く?

  3. STAGE 3 BOSS

    ハイテク VS 私 ―最新鋭トイレとの仁義なき戦い―

    流したい 押したボタンで 人が来る

    ボタン・ロシアンルーレット、恐怖の赤ボタン、機械の中の幽霊。

  4. STAGE 4

    まさかのローテクの罠 ―基本が一番、難しい―

    紙どこだ 右か左か 大捜査

    紙を求めて三千里。和式便器の向き。見えない汚れ。女性視覚障害者の静かなる闘い。

  5. STAGE 5

    暗闇に差す光

    その言葉 心照らした ヒーローだ

    外出前の水分調整。心ない一言。そして、すぐそばにいたヒーローたち。

  6. STAGE 6

    未来のトイレへの設計図

    そのフック きっと未来の 道しるべ

    あなたに、施設に、メーカーにできること。アクションリスト付き。

はじめに「なぜ今、トイレの話なのか?」と、おわりに・著者についても収録しています。

砂漠のようにどこまでも広い、パステルカラーのバリアフリートイレ。便器は左の端、洗面台は右の端、扉ははるか奥。真ん中で小さなアスカが、白杖と手を伸ばしても何にも届かず、困った顔をしている。

STAGE 2

広すぎて、壁が恋しい。

「視覚障害があるなら、広いバリアフリートイレを使えばいいのでは?」

そう思われる方も、きっと多いと思います。でも僕たちは、壁を伝って自分の位置をつかみます。手を伸ばしても白杖を伸ばしても壁に届かない部屋は、まるで砂漠のまん中です。便器はどこ? 出口はどっち?

ある人の「使いやすさ」が、別の人の「壁」になる。本書では、そのすれ違いも正直に書きました。

トイレの個室で便座に座ったアスカが、壁の操作パネルに手を伸ばしかけて「どれだろう?」という顔をしている。文字のない同じ形のボタンが8つ並び、その横に赤い丸ボタンが1つ。

ボタン・ロシアンルーレット

用を足し終えて、あとは流すだけ。ところが壁のパネルには、同じ形のボタンがずらり。どれが「流す」で、どれが「非常呼び出し」なのか、さわっただけでは分かりません。

僕は点字が読めるので助かっていますが、点字を読み書きできる視覚障害者は、全体の1割程度と言われています。

下のパネルで、「流す」ボタンを探してみてください。

点字も文字もないパネルです。押すまで、何のボタンか分かりません。スクリーンリーダーでは「ボタン1」から「ボタン8」と読み上げます。

RESULTどのボタンから押しますか?

押した回数:0

本書で紹介している調査では、視覚障害者の7割以上が、洗浄ボタンと間違えて非常ボタンを押した経験があると答えています。本では、知人が高速バスのトイレでブザーを鳴らしてしまった話も書いています。

笑い話の裏には、こんな数字があります。

  • 8割以上

    男女のトイレの入口を見分けるのに、困難を感じている視覚障害者

  • 7割以上

    洗浄ボタンと間違えて、非常ボタンを押した経験がある視覚障害者

  • 1割程度

    点字を読み書きできる視覚障害者。残りの人には、点字の表示は伝わらない

  • 半数以上

    広いバリアフリートイレより「狭い普通の個室のほうがいい」と答えた全盲の人

  • 96%

    小便器の位置を探すのに困ると答えた全盲の人(LIXILの調査)

数字は、本書の中で紹介している調査や報告からの引用です。

湯気の立つ小さなラーメン屋のカウンター。はちまきの店長が笑顔で、アスカの前の丼の右側に置いたれんげを、手のひらで示している。アスカはうれしそうにほほえんでいる。

ヒーローは、すぐそばにいた。

券売機の前で立ち往生していた僕に、自然に声をかけてくれたラーメン屋の店長さん。丼を置きながら、さりげなくこう付け加えてくれました。

「れんげは、丼の右側、だいたい3時の方向にありますよ」

ラーメン屋の店長さん(第5章)

僕がこれから何に困るかを想像して、先回りしてくれた一言でした。トイレの前でも同じです。いちばんうれしいのは、こんなやりとりです。

店の人「何かお探しですか?」

あすか「すみません、男性用トイレはどちらですか?」

店の人「手前のこちら側が男性用ですよ」

情報さえもらえれば、中に入るのは自分でできます。腕をつかんで押しこまれるより、ずっと安心なんです。

こんな人に読んでほしい

読み物として楽しみたい人へ

  • 自分の知らない世界を、面白く、楽しく知ってみたい
  • ちょっと変わった、でも笑えるノンフィクションが読みたい
  • 「普通」や「当たり前」について、一度立ち止まって考えてみたい

お店や施設を管理している人へ

  • 男女トイレの配置を、全フロアでそろえる
  • ドアノブや手すりに、色のついたテープを巻く
  • 個室に、白杖やカバンをかけられる小さなフックを付ける

モノをつくる人へ

  • 企画の最初の段階から、障害のある当事者をチームに入れる
  • たくさんの機能より、誰でも直感的に使えるシンプルさを
  • 洗浄ボタンと非常ボタンは、さわっただけで区別できる形に

中日新聞「この人」で紹介されました(2026年2月17日)

著者の活動を紹介する記事の中で、視覚障害者のトイレ問題をユーモアを交えて書いた本として、本書が取り上げられました。

前作『「見えない・見えにくい」をサポートする技術』

前作では、「ガイドは半歩前に立つ」「料理の位置は時計の文字盤で伝える」といった、サポートの方法をまとめました。

前作が「技術の教科書」なら、本作は、その技術が求められる現場の「リアルな心の声」です。広すぎるトイレで感じる心細さを知ると、ガイドの人の体が半歩前で「信頼できる壁」になってくれることが、どれほど安心につながるか、きっと想像してもらえると思います。

著者のキャラクター、アスカ。丸い頭に茶色いレンズの丸めがね、紺のジャケット姿。右手で白杖をつき、左手を顔の横に上げて、にっこり手を振っている。
表紙のアスカは、著者がモデルです。

著者について

こんにちは。アスカネットの飛鳥です。

中学2年のときにレーベル病で、1週間ほどのうちに視力をほとんど失いました。それから30年ほど、外出先のトイレでは毎回、小さな冒険をしています。

前作を書いたとき、どうしても書ききれなかったのがトイレの話でした。身近で、切実で、かなりデリケート。だからこそ、眉間にシワを寄せずに読める本にしたかったんです。

この本を書くにあたって、たくさんの友人が体験談を話してくれました。僕が撮った「これ何?」という写真に、いつも根気強く付き合ってくれる妻にも感謝しています。

  • 鍼灸マッサージ師(国家資格)。20年以上、病院のリハビリテーション部門で、患者さんの治療を続けています
  • ウェブサイト制作、動画編集などのコンテンツ制作
  • 金沢市の視覚障害者就労支援団体、VoiceOver・アクセシビリティ関連のNPO法人で活動

くわしいプロフィール

飛鳥(辻嵐 飛鳥)

よくある質問

視覚障害者は、外出先のトイレで何に困っていますか?

トイレの場所を探す、男女の入口を見分ける、個室の鍵の閉め方、便器の種類や向き、流すボタンと非常ボタンの区別、トイレットペーパーのありか、白杖の置き場所など、入口から出口まで困りごとが続きます。本書では、これを一つずつクエストとして紹介しています。

トイレの前で困っている視覚障害者を見かけたら、どう手伝えばいいですか?

まず「何かお困りですか?」と声をかけてください。そのうえで「男性用は手前のこちら側ですよ」のように、言葉で具体的に伝えます。腕をつかんで中へ押しこむのは避けます。情報だけで分かる人もいれば、案内してほしい人もいるので、「一緒に行きましょうか?」と聞いてもらえると安心です。

お店や施設のトイレで、費用をかけずにできる工夫はありますか?

あります。フロアごとに男女トイレの配置をそろえる、白い壁に溶けこむドアノブや手すりに色テープを巻く、洗浄ボタンにシールを貼る、個室に白杖や傘をかけられる小さなフックを付ける、スタッフに声のかけ方を共有する、などです。

バリアフリートイレ(多機能トイレ)は、視覚障害者にも使いやすいですか?

必ずしもそうではありません。広すぎて壁に手や白杖が届かず、便器や出口の位置が分からなくなることがあります。本書では、全盲の人の半数以上が狭い普通の個室のほうがいいと答えた調査を紹介しています。車いすの人には広さが欠かせないので、そこに難しさがあります。

前作『「見えない・見えにくい」をサポートする技術』を読んでいなくても楽しめますか?

楽しめます。前作がサポートの方法をまとめた本なら、本作はその方法がなぜ必要なのかを、現場の体験から伝える本です。どちらから読んでも大丈夫です。

Kindle端末がなくても読めますか?

読めます。無料のKindleアプリを入れれば、スマートフォン、タブレット、パソコンで読めます。ただ、本の最後にもお願いを書いたのですが、できればトイレには置かないでくださいね(笑)。

表紙。クリーム色の背景に、丸い文字の書名「トイレクエスト」と副題。その下で、ピンクの女性用と水色の男性用の扉の間に、白杖を持ったアスカが首をかしげて立っている。いちばん下に著者名「飛鳥」。

本の情報

書名
トイレクエスト ある視覚障害者の、笑えて切実なトイレの話
著者
飛鳥
形式
Kindle電子書籍
価格
480円(2026年10月7日時点)
発売日
2025年9月30日
構成
はじめに、全6章、おわりに・著者について
本の長さ
62ページ(Amazonの表示)

読み終えたら、次に公共のトイレに入ったとき、10秒だけ「もし見えなかったら?」と想像してみてください。そして、トイレの前で困っている人を見かけたら、「何かお困りですか?」と声をかけてもらえたら、僕はとてもうれしいです。

  • 価格は2026年10月7日時点のAmazonの表示です。最新の情報はAmazonの商品ページでご確認ください。
  • このページのミニゲームは、本書の内容をもとにした体験用の見本です。実際のパネルの並びや動きは、トイレによって違います。
  • 表紙と挿絵のイラストは、本の内容をもとに制作したイメージです。