

「明日、突然目が見えなくなったら?」
40代、50代で視力を失う人は、実は珍しくありません。
視覚障害者の多くは「中途障害」――つまり、人生の途中で見えなくなった人たちです。
でも、絶望する必要はない。
工夫と技術があれば、人生は続けられる。
それを体感できるイベントが、金沢で開催されました。
こんにちは。アスカネットの飛鳥です。
先日、11月15日(土)に金沢未来のまち創造館で開催された「Civic Tech Meeting KANAZAWA 2025」。
今年のテーマは「見えない世界+シビックテック 視覚障害のリアルを知る、体験する」でした。
私も、視覚障害者対談の登壇者として、そして運営メンバーの一人(コード・フォー・カナザワ)として参加してきました。
「視覚障害」というテーマがつくと、どうしても「大変そう」「何かしてあげなきゃ」とか
あるいは「どういう風にサポートする?方法は?」という、少し重たい”福祉的な空気”になりがちですよね。
でも、このイベントは全く違いました。
そこにあったのは、支援する側・される側という壁を超えて、
「困りごとを、どう技術(テック)とアイデアで解決するか?」という、ワクワクするような前向きな熱気でした。
今日は、そんなイベントの様子と、自分が感じたことをレポートします。
視覚障害は「他人事」じゃない――中途障害の現実と希望

イベントの前半は、「何に困ってるの?視覚障害対談」というセッションに登壇しました。
お相手は、同じく視覚障害当事者である林由美子さん(レディース鍼灸院 織歩 /「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 代表)。
モデレーターの佐々木さんが投げかけてくれる質問に、私たちが日常のリアルを打ち返していくスタイルです。
実は、林さんとは視覚障害ラジオステーションなどで二人で話している時いつも盛り上がるので、「今回は漫談のようになるかな?」と思っていました。
結果としては……残念ながら漫談にはできませんでした(笑)。
でも逆に、会場の多くの方が、真剣に聞いてくださる姿勢が伝わってきて、それはとても嬉しかったです。
「明日は我が身」という事実
対談の中で、会場の皆さんの空気が少し変わった瞬間がありました。
それは、この話をした時です。
「視覚障害は、生まれつきの人よりも、人生の途中で見えなくなる『中途障害』の方が圧倒的に多いんです」
つまり、今この記事を読んでいるあなたにとっても、これは決して他人事ではありません。
ある日突然、あるいは徐々に、見えなくなる日は来るかもしれない。
40代、50代で視力を失ったら?
仕事は?
家族との生活は?
そう想像すると、怖さを感じるかもしれません。
テクノロジーが可能にする「見えなくても楽しめる人生」
でも、私たちが伝えたかったのは「恐怖」ではありません。
「工夫と技術があれば、大丈夫」ということです。
林さんと私の共通した想い。それは、
「見えなくなったら何もできない、なんてことはない。工夫次第でお酒を飲みに行ったり、人生を楽しむことはできる」
「ICT(情報通信技術)や人の繋がりがあれば、絶望することのない世界は作れる」
ということでした。
例えば、視覚障害者が使う音声読み上げソフト「スクリーンリーダー」や、困ったときに遠隔サポートを受けられるアプリ「Be My Eyes(ビーマイアイズ)」など、アクセシビリティ技術の進化によって、私たちの生活の質は大きく向上しています。
体験から生まれた「自分事」――アイマスク体験とリアルBe My Eyes
話を聞くだけでなく、実際に身体で感じる時間もありました。
参加者の皆さんがペアになり、アイマスクをして会場を歩く「ミニ体験」。
そして、視覚障害者役とサポート役に分かれて個包装のお菓子を選び取る「リアル Be My Eyes」体験。
「見えないと、こんなに情報が入ってこないんだ」
「言葉だけで伝えるって、こんなに難しいんだ」
そんな気づきを得た上で、金沢工業大学の松井教授による「コード化点字ブロック」の事例発表を聞き、最後はグループディスカッションへ。
ただ「大変だね」で終わらせず、
「じゃあ、こんな技術があれば解決できるかも?」
「自分ならこうするかも!」と、
エンジニアリングな視点でアイデアが飛び交う時間は、まさにシビックテック(市民×技術)の醍醐味でした。
参加者が感じた気づき――「福祉」を超えた前向きな対話
当日、リアルタイム感想共有ツールの「TomoQ」や「マッチ箱」には、たくさんのコメントが寄せられました。その一部をご紹介します。
「見えない生活にテクノロジー面でアプローチすることに面白みを感じて参加しましたが、(中略)ベースにチャレンジ精神や失敗にへこたれない強さが必要だなと感じました。」
「視覚障害の方から話を聞く機会が無かったので今日は良い経験になりました。お二人とも大変なことも多々あると思いますが、明るく普通に生きられていて凄いなと思いました。」
「サポートできる人とのマッチングの仕組みがあるといいですね!」
「福祉的観点だと重くなりがちですが、前向きな会だったので楽しかった」という感想もいただき、私たちが目指していた空気感が伝わったようで嬉しかったです。
課題は「情報格差」――便利なツールが届かない理由
イベントを通じて、改めて感じたことがあります。
それは、「便利なテクノロジーは増えているけれど、それが『届いていない』人も多い」という課題です。
今回紹介した便利なアプリやツールも、知らなければ使えません。
そして何より、それらを使いこなすには、スマホやPCのスクリーンリーダーをしっかり使えるようになっていることが大前提です。
さらに言えば、それを下支えする
「新しいことをしよう」
「情報を得て使ってみよう」と
思えるメンタルも、本当に大切だと思います。
いわゆる「デジタルデバイド(情報格差)」は、視覚障害者の世界でも大きな壁になっています。
「便利なものがある」で終わらせず、それを必要としている人にどう届け、どう使えるようにサポートしていくか。
そこが、アスカネットが取り組むべき、これからのミッションだと強く感じました。
まとめ:シビックテックが示す、誰もが安心できる未来
このイベントが、参加者の皆さんにとって、そしてこの記事を読んでくださったあなたにとって、「見えない世界」を少しだけ身近に、そして「自分事」として捉えるきっかけになれば嬉しいです。
視覚障害者支援は、特別な人のための特別な取り組みではありません。
誰もがいつか直面するかもしれない課題に対して、テクノロジーとアイデアで備える。それがインクルーシブな社会をつくる第一歩だと、私は信じています。
次回予告
次回の記事では、このイベントを裏側で支えた技術の話と、ツール『Tomo-Q』について書きます。リアルタイム感想共有を実現した技術的な工夫や、アクセシビリティを考慮した開発プロセスなど、ちょっとマニアックな話になります。
